遺伝子の発現に関する多くの知見は真核生物ではなく真正細菌である大腸菌をモデル生物とした実験から得られてきた。
大腸菌の遺伝子発現は基本的に以下のステップに分けられる。
転写
翻訳
遺伝子制御(発現の調節)
調節段階は再び別の遺伝子発現に影響を及ぼしたり、あるいは周囲の栄養条件などによっても調節を受ける。
真正細菌の遺伝子発現様式は真核生物とは異なるところが多いものの、一般的な遺伝子発現として理解できる。
転写とは、ゲノムDNAにコードされる遺伝子本体およびその周辺領域(具体的には以下に説明)がRNAポリメラーゼによって相補的なRNA鎖 (mRNA) が合成される過程である。必要な材料としては、
DNA依存性RNAポリメラーゼ
ゲノムDNA
リボヌクレオチド(RNA分子:AUGC)
以上が基本的な要素である。
ポリメラーゼの反応などにはマグネシウムなどを要求する場合があるが、ここでは割愛する。
ここで、真核生物と異なるところは、RNAポリメラーゼの構造である。
大腸菌のRNAポリメラーゼは5個のサブユニットから構成されており、サブユニット名からα2ββ’σ構造(αサブユニット:2個、β:1個、β':1個、σ:2個)を取っている。
これらのサブユニットの役割は以下のようになっている。
αサブユニット:プロモーター配列(後述)への結合
βサブユニット:RNA合成開始前にリボヌクレオチドを先駆的に結合させる
β’サブユニット:DNA配列への結合
σサブユニット:プロモーター配列の認識
αは無作為にプロモーター配列に結合するが、σサブユニットはその配列を認識して、発現に適当な遺伝子であるかどうか判断する。
βおよびβ'はそれぞれが共役してRNAポリメラーゼ活性を発揮する。
σサブユニットはプロモーター配列認識の際に必要であり、転写が始まるとRNAポリメラーゼから離れていく。
σサブユニットがRNAポリメラーゼに含まれるか否かで名称が異なっており、以下の名前で示される。
ホロ酵素:α2ββ’σ構造、ゲノムDNAのプロモーター配列認識の際に構成される形状
コア酵素:α2ββ’構造、転写の最中、および細胞内を遊離している状態の形状
σサブユニットの脱着は、転写反応に深く関係する。
転写反応は以下の段階に分類される。
開始
伸長(延長)
終結
翻訳とは転写されたmRNAのコドン(遺伝暗号)にしたがって、リボソームにてアミノ酸がペプチド結合によってポリマー(タンパク質)になっていく過程である。
翻訳に必要な材料は、
mRNA
アミノアシルtRNA(20種類のアミノ酸に対応)
リボソーム
である。
この中で、特に真核生物と異なる点はリボソームのサイズであり、真正細菌及び古細菌では70S(Svedberg単位)、真核生物では80Sとなっている。
また、小サブユニット、大サブユニットに含まれるrRNAの長さも異なっている(詳細はリボソームを参照)。
翻訳過程は以下の段階に分類される。
開始
伸長
終結